【都市】ニュータウンの住環境と高齢化

月雑誌『クーリエ・ジャポン』3月号に
朝鮮日報の記者による、千里ニュータウン関連の記事が掲載されています。



記事のなかで、記者が指摘しているのは以下の三点。



①近年、千里ニュータウンにおいて人口減少、住民の高齢化が進んでいること。
(人口は全盛期の1975年:13万人から2010年:9万人、
65歳以上の高齢者比率は1975年:3.5%から2010年:29.9%)


②韓国の代表的ニュータウン「盆唐新都心」も千里ニュータウンと同じ
人口減少と住民の高齢化を進行させていること。


千里ニュータウンが人口を減少させるなか、同じ大阪市近郊の都市でも
東大阪市の工業地帯にあるマンションでは、若い層が入居しており、
「住工混住現象」が見られること。



本記事にそって本稿、次稿にわたり、
ニュータウンの問題について考察していきます。



ニュータウンの高齢化
①については本稿をご覧頂いている皆様も含め、
既にご存じの方も多いのではないでしょうか。



高齢化そのものは即「問題」ではないのです。
問題は、千里ニュータウンを含め日本のニュータウン
およびニュータウンを構成する団地が



・急な坂が多いところに位置している。
千里ニュータウンが最たるものですが、ニュータウン自体、
大都市郊外の丘陵地に建設されていることが多い。
そのため、ニュータウンでは住棟を移動するのにいくつもの階段を
使わないといけないこともあります。


※なお、丘陵地にニュータウンが建設された経緯については、
こうした丘陵地の多くが、明治政府成立以前・旧藩の入会地(共有地)であり
「手つかず」であったことが指摘されています。
(上田篤『75年のあゆみ 記述編』阪急電鉄株式会社)
つまり広域にまたぐプロジェクトを展開できる
中央集権国家、大資本の鉄道会社(千里では阪急など)が
切り開いた住宅市場の新天地が、丘陵地だったということです。


・エレベーターがついていない。
→1950年代末〜1960年代初期に建てられた最も古いタイプの日本の団地は、
5階建てで、エレベーターがありません。建て替えの進まない老朽化した
団地は、階段に手すりをつけるなどの対策をしています。
※たとえば、千里ニュータウン最古、1964年竣工の千里津雲台団地のうちの
一つの住棟は、こんな感じ



・スーパーなど、生活必需品を購入できるところが住居から遠い。
ニュータウンは開発当初、公団や行政が積極的に誘致した結果、
団地内に商店がたくさんありました。
しかし、現在は郊外大型店の進出の影響を受け、多くの団地内商店が
シャッターを下ろしています。


・公共交通機関(特にバス)のアクセスが悪い。ニュータウンは居住者の方はおわかりかと思いますが、
非常に広大です。住居から鉄道駅・バス停までかなり歩かなければならないところも多い。
そのため、団地内には広大な駐車場が設置されていることが多く、
住民の自動車依存度はかなり高い。



といった特有の住環境にあるということに存在しています。
つまり、とりわけ高齢者にとって、
現在のニュータウンは住みにくい住環境であり、
それが高齢者の住居へのとじこもりや、
社会的な孤立(外に出て友人・知人と交流するのがおっくうになる)
を促してしまう危険な側面があるということ。



もちろん、行政や住民の方々は手をこまねいているわけではなく、
集会所をデイ・サービスセンターとして活用したり、
(住民の方々が福祉NPOを運営しているケースも多い)リンク
お年寄りが気軽にあつまれる場(お茶会やカラオケ会)を設けたり、
高齢者が孤立することで起こりうる問題に対処しようとされています。



また、行政が自治会やNPOと提携してニュータウンの団地を巡回する
「出張スーパー」を展開しているところもあります。
※読売新聞の記事ではこんな例が紹介されています。
遠くまで買い物へ行かなくてもよく、楽で便利ということもさることながら、
出張スーパーの前でお年寄りが集まり、話に花が咲くという思わぬ「効果」も
あるとのこと。



このようなサービスは、高齢者がニュータウン
快適に生きるために大変重要です。
行政は地域住民のこうした活動を支援する必要があると思いますし、
非住民が営利・非営利の活動もニュータウン内で事業を展開できるよう、
政策・条例の見直し、経済的支援をしてほしい。
またニュータウンに住まない私たちも、
このような活動を見守っていくべきではないでしょうか。



〇分断されるニュータウン
ところでニュータウンは、1950年代の住宅不足の解消を目的に、
日本住宅公団、行政の公社などが連携して進めた一大プロジェクトでした。
当時入居してきた人の多くは、幼い子供のいる若い夫婦。
ニュータウンはその名が醸し出すイメージ通り、
「新しい、若い街」だったのです。



ところが現在、当時の「子供」の多くはニュータウンに留まらず、
他の土地で暮らしています。
老いた両親、また夫や妻と死に別れた一人暮らしの高齢者は残される。
子供が育つとともに、さらに便利な都心に住み替えた方、
新たに子育ての拠点として、よそから越してきた若い夫婦もいますが、
ニュータウンの高齢化は住民の人生のサイクルから、
概ね以上のように展開してきました。



そして近年、40年・50年の築年数を経ても
手を入れられない老朽化した、高齢者が多く住む団地が残されるいっぽう、
駅の近くの好立地にあった団地跡に建て替えられているのは、
大手デベロッパーによって供給される、
壮年の高所得者層を対象にした高層マンションです。



これらのマンションには
「キッズルーム」「交流ラウンジ」「エクササイズスペース」
など豪華なアメニティが備えられていることも多い。
子育てをするには望ましい環境でしょう。
ただ、住民が老いたその先をとらえた住環境ではどうやらない。



また、古い団地がこのようなマンションに建て替えられる際、
賃貸住宅の場合、家賃の相場が大きく上がってしまうことがあります。
このような背景から、ニュータウンの団地建て替えには、
低所得者が住み慣れた家を立ち退かざるを得なくなってしまう問題が
しばしば生じる。
つまり建て替えを境に、所得に基づく経済的なふりわけが
意図せずとも行われ、その結果、建て替え後の新しいマンションには
高所得者が集住する。



ニュータウンは先ほども述べたように広大です。
それぞれの団地間が地理的に離れてしまうのは必然です。
とはいえ、このまま古い団地が
このようなマンションばかりに建て替わってしまうと、
(また、同じような方針で建て替えが進んでしまうと)
古い団地に住む高齢者と
新しいマンションに住む子供・壮年者は「分断」されてしまうのではないか。



それは簡単にいえば、
・世代的
・経済的
な分断です。



かつて、似た境遇の若い夫婦と子供たちがつくりあげてきたニュータウンは現在、
古い・貧しい「オールドタウン」と
新しい・豊かな「ニュータウン」に
分断されつつあるるのではないか。
ニュータウン」をまとまった社会としてとらえることが
難しくなっているとするなら、政策はそれぞれに対応したメニューを
用意する必要があるのではないか。



いや、そもそもニュータウンは、長期的なスパンでみれば、
世代的・経済的に分断されてしまう要因が潜んでいたのではないか?
その要因は?


ニュータウンにはさまざまな問いが隠れています。



ところで、ニュータウン住民を対象にした
いくつかのアンケートの結果によると、ニュータウン
「多様な住民が住める街」
「地域活動に幅広い世代が参加する街」
「若い世代が住める街」
にしたいという要望を持つ住民が、一定数いらっしゃるそうです。



住民の方々は、自分たちの住む街の問題を確実にとらえています。
私たちは彼らの問題意識に寄り添いながら、
ニュータウンをどのような街にしていくことができるでしょうか。



≪参考文献・資料≫
『COURRIER JAPON』(2011年3月号),講談社
週刊ダイヤモンド(特集:ニッポンの団地)』(2009年9月号),ダイヤモンド社
山本茂,2009,『ニュータウン再生』,学芸出版社