【都市探訪】群馬県前橋市 〜駅をはさんだ「攻防」〜

今回は群馬県前橋市です。
当初私は、工業集積地区であり、在日外国人が多く住むという点で、社会学的に注目を集める伊勢崎市・太田市を訪れる予定でしたが
自らの肉体と公共交通機関のみに頼る自分の旅行スタイルで、モータリゼーションの進んだこのような都市を
探索することに限界を感じたため(大宮から朝イチで着いてから気づいた)急遽前橋を目指すことにしました。



前橋市群馬県の県庁所在地ですね。
しかし隣接する自治体としては高崎市があり、
人口規模や行政、商業などあらゆる面でライバル関係にあるといわれます。
その文脈で高崎は「経済」の中心、前橋は「行政」「文化」の中心と称されますが、
実態はどうなのでしょうか。



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さて前橋駅に降り立つと、けやき並木が影を落とすメインストリートが伸びています。

夏の時分はとくにさわやかな景観ですが、駅前のホテルや商業施設(イトーヨーカドー)は
多くがシャッターの閉まっている状況です。活気や治安という面では問題を抱えているのでしょう。



駅の近くには市がレンタサイクルを運営している駐輪場があり、
渡りに舟とばかりに訪れてみます。なんと19時まで借りられてたった200円!



中心市街地までは自転車で10分ほど時間を要します。
川沿いの道を走ります。広瀬川という利根川水系の疎水なのだそうですが、
雨上がりでもないのにものすごい水量です。都市河川についての常識が壊れていきます。

さらに進むと中央通り商店街に行き着きます。
この商店街を含め、前橋市中心市街地は空洞化が叫ばれ、問題視されることも多いようです。
訪れてみると確かに、全ての店舗がオープンしているわけではなく、「盛況」とはいえない状況ですが、
夏休みということもあり、子どもと親御さんの姿が多く目に入ります。
どうやら地元のJC(青年会議所)がイベントを実施しているようです。
そのイベントでは地域通貨を発行しているようで、それでかき氷を買い頬張る親子も。



中心市街地というのはつまるところ自営業者の相互扶助コミュニティですので、
担い手の再生産が将来のゆくえを左右します。また、消費者も域内で再生産(世代を超えてファンをつくる)する必要があります。
地域に若者が定着するか、ということは商店街だけの課題ではありませんし、
商店街の隆盛が若者を引き付ける唯一の要因というわけでもありませんが、
子どもの記憶に訴え、子どもに「投資」することは、非常に意味のある施策であると感じます。



また中央通り商店街には、買い物客の利便性と快適さを追求するさまざまな工夫がこらされています。
写真は「グリーンウォーク」です。



グリーンウォークとは並行している商店街の通りを、植栽やベンチでかざったパス(小径)でつなぐものです。
このようなパスがあれば買い物客は遠回りすることなく、商店街の店舗をまわることができます。
いま古い商店街では、空き店舗や未利用地を商店街で共同管理し、
コミュニティスペースや公園に転用するケースが増えていると耳にすることがあります。
このように公園とパスの折衷のような土地利用も考えられるのですね。



商店街を出て自転車を郊外に走らせます。気づけば標識には「高崎市」の文字。
前橋と高崎の市境には大規模な工業団地が点在しています。
北関東において、両市は伊勢崎や太田などの周辺自治体とベルト状に工業地帯を形成し、一大拠点となっている様子がうかがえます。



気ままに自転車を走らせていると、どうやらまた駅に近づいているようです。
すると目に入ってくるのは破壊的なまでに巨大なショッピングモール。
けやきウォーク」と呼ばれるこのショッピングモールは中心市街地とは駅をはさんで反対側にあり、
映画館やスーパー、大型書店など、魅力的なコンテンツを抱えています。経営主体はユニーの様子。



その巨大さとひっきりなしに吸い込まれていく車を見て、
このモールが中心市街地の空洞化問題と無関係でないことは容易に想像できました。
1970年代〜80年代にかけて、かつて日本の都市部や港湾付近に存在していた工場は、
経済のグローバル化の進展による国際間競争、それに伴う土地利用費や人件費の抑制圧力を背景に
郊外の工業団地や海外へと移転されるケースが増えていきました。
そうなれば地元の雇用も失われ、地方自治体は税収面で打撃を受けることになります。
当時としてはこの両面をカバーできる即効性をもつ施策として、こうした跡地への大型ショッピングモールの進出が
検討され、多くが実行に移されたのです。
ところが完成したショッピングモールによって中心市街地の小売は吸引され、多くの商店街が活気を失い
自動車を必須ツールとするこれらの施設は、都市景観を変化させていきました。
ある意味で都市における副作用といえるでしょう。



けやきウォーク」はダイハツ車体の跡地、まさにこのケースに当てはまります。
ということはさきほど訪れた商店街とは駅をはさんで、浅からぬ関係があるのでしょう。



現在は法改正により、上記のような副作用を問題視する声から、このようなショッピングモールの出店規制が進んでいます。
また大型店舗とモータリゼーションによる中心市街地空洞化を問題視する議論は依然として盛り上がっています。
(例えば『ファスト風土化する日本』三浦展氏が展開している議論)



私はこの議論に妥当性があると思いますし、どこでも同じようなモールやアウトレットが拡がる風景に辟易することも多いです。
しかし議論は、個人の好き嫌いの問題ではなく、
「大型ショッピングモールを依然として多くの人々が支持し、利用している現実」
を理解し、尊重したうえで、
「大型ショッピングモールの存在が間接的に引き起こす諸問題」
を慎重に見積もり、対処していくことを前提に進めていくことが肝要ではないでしょうか。
「諸問題」とは具体的に、経済的・文化的ニッチへの圧迫(個人商店や小規模の映画館やホール)、
交通弱者(お年寄りなど)の消費活動の疎外、などが挙げられるでしょう。
このような立場にたつ私は、中心市街地の活性化は上記のような問題の解決に寄与する限り、
手段として求められるのであって、必須事項ではないと考えています。




前橋市は今後、駅をはさんだ両者(商店街とショッピングモール)の利害をどう調整し、都市のデザインを設計していくのでしょうか。
またそのプロセスに、企業や市民はどのように関わっていくのでしょうか。
中心市街地には「げんき21」という公営施設があり、観光案内所等がありますが
テナントはスカスカで、市民利用は進んでいないようにもみえます。
「誰が」「誰のために」「どのような」都市政策を設計するのか。
一部のステークホルダー(利害関係者)に配慮する利権構造を越えた、
全ての市民が納得する制度設計が、この街にも求められているのだと感じます。